いつもの通り、しっかり準備をして挑む。
オトモと二人、風の吹きすさぶ氷の大地に来たのはとある依頼を受けての事だった。
目的の洞窟が目視できる地点までたどり着き、少しだけ息を吐く。
そこまで行ければ風からは逃れられるが、気は抜けない。
生き物の気配が少ない場所であろうと、ベースキャンプを出てしまえば絶対安全といえる所はない。
少しずつ足を進め、やっと洞窟の入り口に立った時、洞窟の奥から大きな影がこちらに動いてくるのが見えた。
白っぽくずんぐりとした体、長い首の先には眼が無く大きい口が不気味に目立つ頭、独特なその姿。
「フルフル……!」
地面をヒタヒタと歩きながらしきりに首をふり、嗅覚で周囲を探り、近づいてくる。
まだ見つかってはいない。なら左の脇道に進んで回避したほうがいい。今回の依頼は討伐ではないのだから。
そう思い、体制を低くしながら静かに移動していたその時。
ふいにフルフルが足を止めた。
そして、こちらを、見た。
眼が無いのだから見つめられたわけではない。しかしまっすぐに、こちらを、自分たちを見据えている。
(見つかったのか?!ならば向かってくるか咆哮をあげるが…しかし…)
体感したことの無い緊張で、奴から目をそらせない。
立ち止まったまま、フルフルは表情の無い顔でまちがいなくこちらを、見ている。
そして、少しでも離れようと足を引きずるように後ずさる自分たちに、
“にやぁ”
と、大きな口を歪めて、笑った。
得体の知れないモノに首筋を撫でられたような気がした。
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